あらすじ
アリストテレスによって弁論術・詩学として集成され、近代ヨーロッパに受け継がれたレトリックは、言語に説得効果と美的効果を与えようという技術体系だった。著者は、さまざまな具体例によって、日本人の立場で在来の修辞学に検討を加え、「ことばのあや」とも呼ばれるレトリックに、新しい創造的認識のメカニズムを探り当てた。 日本人の言語感覚を活性化して、発見的思考への視点をひらく好著! [本書の内容] 序章1 レトリックが受けもっていた二重の役わり 序章2 レトリック、修辞、ことばのあや 第1章 直 喩 ふと入口のはうを見ると、若い女のひとが、鳥の飛び立つ一瞬前のやうな感じで立つて私を見てゐた。 第2章 隠 喩 葦名の目の色がかすかにうごいて、笑のさざなみをふくんだやうであつた。 第3章 換 喩 羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男の外にも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありさうなものである。それが、この男の外には誰もゐない。 第4章 提 喩 堅田の浮御堂に辿り着いた時は夕方で、その日一日時折思い出したように舞っていた白いものが、その頃から本調子になって間断なく濃い密度で空間を埋め始めた。 第5章 誇張法 もしも、誰かが、私という男を、私が毛虫を嫌う程度に厭がっているとしたら、--もしも私に対してそんな気持を有つ人間が一人でもこの世に居ることを知ったら、私はもう生きている気持を失うだろう。そんなにまで思われて、どうしておめおめ生きていることが出来るだろう。 第6章 列叙法 あんまりやさしくするてえと、当人が図にのぼせちゃう。といって、小言をいやあ、ふくれちゃうし、なぐりゃ泣くし、殺しゃ化けて出る。どうも困るそうですなあ、女というものは……。 第7章 緩叙法 「笑いごとじゃないぞ」とウィングが言った。 「笑う気はないさ」、シェーンはライターの火をつけた、「もっとも、だからと言って泣きたいとも思わんがね。」 本書のなかのおもなレトリック用語 おもな引用文献 あとがき 佐藤信夫 または ことばへの信頼(佐々木健一)